2026.1.21
企業SNSは「広報」か「採用」か|経営視点で整理するSNSの役割
企業がSNSを活用することは、もはや特別な取り組みではなくなりました。多くの企業が公式アカウントを持ち、情報発信や採用活動、ブランディングに取り組んでいます。一方で、「SNSをやっているが、何の成果につながっているのか分からない」「投稿作業だけが業務として回っている」と感じている企業も少なくありません。
SNSは、本来、広報、採用、営業、信頼構築など、複数の経営テーマと密接に関わるツールです。しかし、その役割が整理されないまま運用されると、目的が曖昧になり、投資対効果の判断も難しくなります。結果として、SNSが“作業”として消費され、経営判断から切り離された存在になってしまいます。
特に多いのが、「企業SNSは広報なのか、それとも採用なのか」という迷いです。どちらも重要ですが、役割設計を誤ると、どちらにも中途半端な運用になりやすくなります。
この記事では、企業SNSを経営視点で捉え直し、広報・採用・営業それぞれの役割をどのように整理すべきかを解説します。経営者アカウントと企業アカウントの役割分担も含め、組織としてSNSをどう活用すべきかを整理できる内容を目指します。
目次
第1章|なぜ企業SNSは「作業」になると失敗するのか

企業SNSがうまく機能しなくなる最大の原因は、SNSが「戦略」ではなく「作業」になってしまうことです。投稿を作り、予約投稿を設定し、数値を報告する。この流れ自体は整っていても、その先にある経営目的と結びついていないケースは非常に多く見られます。この章では、なぜSNSが作業化すると失敗しやすいのか、その構造を整理します。
投稿業務化のリスク
多くの企業では、SNS運用が担当者の業務タスクとして割り振られています。「週に何本投稿する」「毎日更新する」といったルールが決まり、スケジュール通りに投稿を回すことが目標になっていきます。
一見すると、運用が安定しているように見えますが、この状態が続くと、投稿そのものが目的化しやすくなります。今日は何を投稿するか、素材は揃っているか、予約は設定できたかといった“作業の完了”が評価基準になり、「この投稿は何の成果につながるのか」という視点が抜け落ちてしまいます。
結果として、投稿本数は維持できているのに、問い合わせが増えない、採用応募につながらない、ブランドの認知や信頼が高まっている実感が持てないといった状態に陥ります。SNSが動いていることと、事業に貢献していることは、必ずしも一致しません。
目的なき運用の限界
SNSを作業として回している企業ほど、「なぜSNSをやっているのか」を明確に説明できない傾向があります。競合がやっているから、昔から続けているから、上司に言われたから、といった理由で運用が継続され、目的が言語化されないまま投稿が積み重なっていきます。
目的が曖昧なままでは、投稿内容の判断基準も曖昧になります。商品紹介を増やすべきなのか、社内の取り組みを発信すべきなのか、業界情報を発信すべきなのか、担当者の感覚に委ねられた運用になりやすくなります。
その結果、アカウントの軸が見えにくくなり、フォロワーにとって「このアカウントをフォローする理由」が分かりにくくなります。SNSは継続的な接点を作れる強力なツールですが、目的が整理されていなければ、その力を十分に活かすことはできません。
経営視点が抜け落ちる問題
SNSが現場任せの業務になると、経営視点との接続が弱くなります。投稿内容や数値は担当者レベルで管理され、経営会議や事業判断の場でSNSのデータが活用されることは少なくなります。
例えば、フォロワー数やインプレッションは報告されていても、それが売上や採用、ブランド評価にどう影響しているのかが説明できないケースは多く見られます。数字はあるものの、意思決定に使える情報になっていない状態です。
この状態が続くと、SNSは「コスト」として認識されやすくなります。人件費や制作コストはかかっているが、経営成果とのつながりが見えないため、優先順位が下がりやすくなります。
本来、SNSは顧客との接点を増やし、企業の信頼を積み上げ、将来の成果につながる重要な資産になり得る存在です。しかし、作業化した運用では、その価値が経営に伝わらず、戦略的な投資対象として扱われにくくなってしまいます。
「やっている感」と「成果」のズレ
SNS運用が作業化すると、現場では「ちゃんとやっている」という実感が生まれやすくなります。投稿は止まっていない、フォロワーも少しずつ増えている、数値レポートも出している。表面的には、運用は機能しているように見えます。
しかし、その活動が事業成果にどのようにつながっているのかを問われたとき、明確に答えられないケースが多くなります。この「やっている感」と「成果」のズレが、SNS運用の評価を曖昧にし、改善の方向性を見えにくくします。
改善の軸がないまま運用を続けると、投稿内容のマンネリ化や、担当者の疲弊、モチベーション低下にもつながります。SNSは本来、改善サイクルを回しやすいメディアですが、目的と評価基準が整理されていなければ、その強みを活かすことができません。
第2章|広報・採用・営業をSNSでどう割り振るか

企業SNSがうまく機能しない理由の一つに、「一つのアカウントで何でもやろうとしすぎる」設計があります。広報、採用、営業は、それぞれ目的も成果指標も異なる活動です。それらを明確に切り分けずに運用すると、発信内容がぼやけ、成果も見えにくくなります。この章では、SNSにおける役割の割り振り方を整理します。
広報・採用・営業それぞれの役割の違い
まず、それぞれの役割が何を目的としているのかを整理します。
広報は、企業の認知やブランドイメージを形成し、社会や顧客との信頼関係を築く役割を担います。短期的な売上よりも、中長期的な企業価値の向上が目的になります。発信内容は、企業の姿勢、取り組み、価値観、業界へのスタンスなどが中心になります。
採用は、将来の人材確保に向けた活動です。企業文化や働く環境、社員の考え方などを伝え、「この会社で働きたい」と思ってもらうことがゴールになります。候補者との心理的距離を縮めることが重要になります。
営業は、見込み顧客との接点を作り、具体的な問い合わせや商談につなげる役割を担います。課題解決の情報提供や実績紹介、サービス理解の促進など、より直接的な成果を意識した発信が求められます。
これらはすべて重要ですが、同じトーンや同じ投稿設計で同時に成立させることは簡単ではありません。
1アカウントで全部やろうとする危険性
一つのアカウントで、広報、採用、営業すべてをカバーしようとすると、投稿テーマが散らばりやすくなります。ある日は商品紹介、ある日は採用情報、ある日は社内イベント紹介といった形で、アカウントの軸が見えにくくなります。
フォロワー側から見ると、「このアカウントは何の情報を発信しているのか」が分かりにくくなり、継続的にフォローする理由が弱くなります。結果として、エンゲージメントが伸びにくくなり、成果につながりにくくなります。
また、社内でも評価が難しくなります。どの投稿がどの目的に貢献しているのかが整理されていないと、改善の議論が抽象的になりやすくなります。
役割分担設計の考え方
役割分担を考える際は、まず「自社にとって今、最も優先すべき目的は何か」を整理します。採用が最優先なのか、ブランド認知なのか、営業リード獲得なのかによって、SNSの設計は大きく変わります。
すべてを同時に最大化することは難しいため、優先順位を明確にしたうえで、補助的な役割をどう組み込むかを検討します。場合によっては、アカウントを分ける判断も現実的です。
重要なのは、「SNSで何を達成したいのか」を起点に、役割を割り振ることです。投稿内容から考えるのではなく、経営目的から逆算して設計することで、運用のブレを防ぎやすくなります。
関連記事→採用Xで人が離れる企業の共通点|炎上・不信・応募ゼロの典型パターン
第3章|経営者Xと企業アカウントの役割分担

近年、経営者自身がXで発信するケースが増えています。トップの考えや価値観を直接伝えられる点は大きな強みですが、企業アカウントとの役割が整理されていないと、発信の重複やメッセージのブレが起こりやすくなります。この章では、経営者Xと企業アカウントをどのように使い分けるべきかを整理します。
経営者が担うべき発信
経営者アカウントの最大の価値は、「意思決定の背景」や「経営の考え方」を個人の言葉で伝えられる点にあります。企業公式の発信では伝えにくい判断プロセスや価値観、業界への見方などを発信できることが強みです。
経営者の発信は、必ずしも完璧に整理された情報である必要はありません。考えていること、迷っていること、学んだことを率直に発信することで、人となりが伝わり、信頼につながりやすくなります。
また、採用の観点でも、経営者の考え方に共感する人材が集まりやすくなります。企業文化の方向性を示す役割としても、経営者Xは重要な存在です。
企業アカウントが担うべき発信
企業アカウントは、個人の思想ではなく、「組織としてのメッセージ」を安定して届ける役割を担います。サービス情報、実績、取り組み、公式情報など、正確性と再現性が求められる情報が中心になります。
また、問い合わせ導線や情報整理など、ユーザーにとって分かりやすい窓口としての機能も重要です。属人化せず、チームで運用できる設計が求められます。
経営者Xが“思想”や“視点”を伝える場だとすれば、企業アカウントは“信頼できる公式情報のハブ”としての役割を担います。
両者を分けるメリット
経営者Xと企業アカウントの役割を明確に分けることで、発信の一貫性が高まり、ユーザーにとって理解しやすい構造が作れます。
経営者Xでは、経営視点や意思決定の背景を深く伝え、共感や信頼を積み上げる。一方で、企業アカウントでは、公式情報やサービス理解を安定的に提供する。この役割分担によって、発信の混乱を防ぎやすくなります。
また、リスク管理の面でも役割分担は重要です。個人発信と公式発信を分けることで、情報の責任範囲や表現ルールを整理しやすくなります。
第4章|経営判断としてSNSをどう位置づけるか

SNSを「現場の運用業務」として扱うか、「経営判断に関わる資産」として扱うかによって、企業の向き合い方は大きく変わります。SNSが作業に留まっている企業ほど、投資判断や評価が曖昧になりやすく、継続的な改善につながりにくくなります。この章では、SNSを経営視点でどう位置づけるべきかを整理します。
SNSはコストか、資産か
多くの企業では、SNSは「人件費がかかる」「制作工数がかかる」「効果が見えにくい」という理由から、コストとして扱われがちです。数字で成果を説明しにくい場合、優先順位が下がり、運用の改善投資も進みにくくなります。
一方で、SNSは本来、顧客との継続的な接点を作り、信頼を積み上げ、将来の成果につながる“資産”になり得るメディアです。検索や広告と異なり、日々の発信が蓄積され、企業の姿勢や価値観が可視化されていきます。
資産として捉える場合、短期的な数値だけで判断するのではなく、中長期でどのような価値を積み上げたいのかという視点が必要になります。
評価の考え方をどう変えるか
経営視点でSNSを評価するためには、「見やすい数字」だけに頼らない設計が重要です。フォロワー数やインプレッションは把握しやすい指標ですが、それだけでは経営判断に活かしづらいケースが多くあります。
例えば、採用が目的であれば、応募者がどこで企業を知ったのか、SNS経由での接触がどれくらい影響しているのかを確認する必要があります。営業や認知が目的であれば、指名検索、問い合わせ、資料請求などとの関係を見ていくことが重要になります。
SNS単体の数値ではなく、事業成果との接点をどう作るかが、評価設計のポイントになります。
意思決定とSNSの関係
SNSのデータは、経営判断に活かせる情報を多く含んでいます。ユーザーの反応、よく読まれているテーマ、共感されやすいメッセージなどは、商品開発、採用広報、ブランディングのヒントになります。
SNSを単なる発信チャネルとして扱うのではなく、「市場との対話の場」として捉えることで、経営の意思決定に活用できる情報源になります。
そのためには、現場の運用データが経営層に共有され、議論の材料として使われる仕組みを整えることが重要です。
第5章|自社SNSの役割を整理するチェックポイント

ここまで、SNSを作業として扱うリスク、広報・採用・営業の役割分担、経営者Xと企業アカウントの使い分け、経営視点での評価の考え方を整理してきました。最後に、それらを実務に落とし込むために、自社SNSの役割を整理するチェックポイントをまとめます。新年の棚卸しや、社内共有の材料としても活用しやすい内容です。
SNSの目的は明確か
まず確認したいのは、「このSNSは何のために運用しているのか」が明確になっているかどうかです。認知拡大なのか、採用なのか、顧客との関係構築なのか、あるいは複数の目的を持っているのかを言語化できているかを確認します。
目的が曖昧なままでは、投稿内容やKPIの判断基準がブレやすくなります。担当者だけでなく、上司や経営層とも同じ認識を持てているかが重要です。
誰に向けたアカウントなのか
次に、「誰に向けて発信しているのか」が整理されているかを確認します。顧客なのか、求職者なのか、業界関係者なのかによって、発信すべき内容やトーンは大きく変わります。
フォロワー全体ではなく、最も価値を届けたい対象が明確になっているかをチェックします。
どの役割を優先しているか
広報、採用、営業のうち、どの役割を最優先にしているのかを整理します。すべてを同時に最大化しようとしていないか、優先順位が明確になっているかを確認します。
役割が曖昧なまま運用していると、投稿内容が分散し、成果が見えにくくなります。
KPIは経営成果とつながっているか
フォロワー数や表示回数だけを見ていないかを確認します。問い合わせ数、応募数、指名検索など、事業成果につながる指標との接続が整理されているかが重要です。
KPIが意思決定に使える形になっているかを見直しましょう。
運用体制は持続可能か
担当者に依存した運用になっていないか、ルールやノウハウが共有されているかを確認します。属人化が進むと、品質や継続性に影響が出やすくなります。
チームで再現できる運用設計になっているかをチェックします。
まとめ
企業SNSは、単なる情報発信や投稿作業ではなく、経営と直結する重要なコミュニケーション資産です。広報、採用、営業といった役割を整理せずに運用していると、目的が曖昧になり、成果が見えにくくなります。
SNSを経営視点で捉え直すことで、どの役割を優先すべきか、どの指標で評価すべきか、どの体制で運用すべきかが明確になります。経営者アカウントと企業アカウントの役割分担も整理することで、発信の一貫性と信頼性を高めることができます。
新年は、こうした設計を見直す絶好のタイミングです。自社SNSの役割を棚卸しし、目的・対象・役割・評価・体制を整理することで、SNSは「作業」から「経営に貢献する仕組み」へと進化していきます。
:関連記事
・https://sonar-ats.jp/column/recruit-4026/?utm_source=chatgpt.com
